難消化性デンプン(「健康」07年3月号)

小腸で消化・吸収されないため、血糖値をゆっくりと上昇させる「難消化性デンプン」とは 
(医学博士・茨城キリスト教大学教授・板倉弘重先生)

板倉先生のPROFILE
1961年、東京大学医学部卒業。同第3内科講師、国立健康・栄養研究所臨床栄養部をへて現職。脂質代謝、動脈硬化、抗酸化物質などの研究で第一人者として知られる

消化されにくいデンプンが糖尿病の救世主になる

ごはん、パン、麺類などの主成分はデンプン。いわゆる主食と呼ばれるものばかりですね。
でも、「太りそう」「血糖値を上げそう」という印象を抱いている人も多いのでは?じつは、これらの食品に含まれるデンプンも性質に違いがあることがわかってきたのです。
近年の研究で「デンプン」には、
① 消化・吸収のいい性質を持つデンプン
② 消化・吸収されにくい性質を持つデンプン
があることがわかりました。
②のデンプンは、消化・吸収されにくい性質から、「難消化性デンプン」、あるいは「レジスタント・スターチ」といわれます。
現在、この難消化性デンプンが、糖尿病や肥満、メタボリックシンドロームの人の食事療法に役立つと注目を浴びているのです。
この難消化性デンプンとは、どのようなものなのでしょう?
通常、口から入ったデンプンは胃から小腸に入り、小腸で分解・吸収されます。しかし、難消化性デンプンは、小腸で分解されません。吸収も抑えられます。
小腸で消化されなかった難消化性デンプンは、大腸に行き、大腸菌によって発酵されて一部が吸収され、残りは便として排出されます。
専門的なことは省きますが、デンプンにはいろいろな種類があり、化学的な構造も違います。その構造によって消化酵素の影響を受けにくく、分解されにくいものがあることがわかったのです。

血糖値をすぐに上げず、ゆっくりと上昇させる

消化のいいデンプンを食べると、砂糖をとったときと同じように血糖値はぽんとはね上がります。しかし、難消化性デンプンは血糖値をゆっくりと上昇させます。
糖尿病で膵臓からインスリンが出にくい人は、高血糖を引き起こさずにすむので、非常に適しているというわけです。
また、同じデンプンでも消化のいいデンプンより、この難消化性デンプンのほうが血糖を上げにくいので、お腹いっぱい食べられるというわけです。
ここまで読んで気づいた人もおられるかもしれませんが、難消化性デンプンは食物繊維と非常に似た働きを持っています。
食物繊維も小腸で分解・吸収されることなく、大腸に行き、便として排出されます。糖尿病の人は血糖値を上げにくいという理由から、食物繊維を多くとるようすすめられます。
多くのデンプン食品には、消化されやすいデンプンと難消化性デンプンの両方が含まれています。しかし、食品の選び方しだいで難消化性デンプンの割合を高めることができます。
ごはん(白米)とパンをくらべれば、難消化性デンプンはごはんのほうに多く含まれます。完全に精製した白米より、五分づきや七分づき米、玄米、雑穀米などのようにすべてを精製していないもののほうに、難消化性デンプンは多く含まれます。
パンも同様です。精製した小麦粉で作った白いパンより、ライ麦、玄米など、精製していない素材で作ったものを選ぶようにしましょう。見た目は黒っぽい食品のほうが難消化性デンプンは多く含まれるというわけです。
それは穀物の皮や胚芽の部分が残っているため。皮や胚芽の部分を精製して完全にとってしまうと、消化されやすいデンプンになるのです。同時に、糖尿病の人に必要な食物繊維やミネラルもなくなってしまいます。
主な麺類であるうどん、ラーメン、そばをくらべれば、いちばんおすすめはそばです。意外に思われるかもしれませんが、スパゲッティもおすすめです。
欧米の食生活は肉や魚などが中心で、パンやジャガイモなどのデンプンは少ししかとらない食形態です。それに対し、日本人は長年、米がメインとなる食生活をしてきました。
日本人は成人が1日に必要とするエネルギーは1500~2500キロカロリー。日本人はその50~60%を米からとってきました。米はパンにくらべれば、消化されにくいデンプンです。
米 を主食として多くとってきた以前の日本では、いまのように糖尿病やメタボリックシンドロームは多くありませんでした。近年、食生活の欧米化で消化のいいパ ンを主食に多くとるようになったことが、欧米と同様に糖尿病やメタボリックシンドロームを急増させた原因ではないかと思います。
難消化性デンプンの多い主食を選べば、糖尿病でも存分に食べられて、血糖値の上昇も抑えられることができます。ぜひ、試してみてください。

難消化性デンプンの多い食品の選び方

 ごはん ○    パン ×
   パンよりごはんのほうが消化・吸収されにくいのでおすすめ

日本そば ○   うどん、ラーメン ×
日本そばは、消化・吸収されにくいそば粉を原料としているのでこちらのほうがおすすめ

おすすめは雑穀ごはん
   完全に精製した白米よりも、できるだけ精製していないお米がおすすめ。五分づきや米や玄米、雑穀などをまぜるのもおすすめ

白いパンよりも黒い色のパンを
   精製した小麦粉で作ったパンは色が白くなる。ライ麦や雑穀など消化されにくい原料で作ったパンは黒っぽい色になる。パンを食べるときは黒っぽいものを選んで

消化されやすいデンプンをとるときは野菜を組み合わせる
   外のレストランでは、難消化性のデンプンがない場合も多いでしょう。そのようなときは、野菜など食物繊維の多いものをいっしょに組み合わせてとれば、消化・吸収されにくくなる。うどんをとるときはけんちんうどんなどを選んで