特集 シルク&カイコ
(健康産業新聞1999年10月21日)

新製品の投入相次ぐ「食べるシルク」

ユニーク素材「食べるカイコ(幼虫)」の登場で市場活性化

健康食品から一般食品まで幅広い用途で躍進中!

昨 年から今年にかけて、テレビや雑誌、新聞などによる報道ラッシュで、一躍脚光を浴びた「食べる絹(シルク)」。二日酔い防止やアトピー症状改善、抗糖尿 病、美容など、各メディアはさまざまなテーマで「食べる絹」を取り上げた。シルクが食品素材として流通し始めたのは約10年も前だが、「昨年から本格的に 動き始めた」「引き合いは大きい」とする企業が多く、なかには前年の売上げ実績を大きく上回る企業もある。また新製品の市場投入も相次いでいる。商品アイ テムもタブレットや顆粒状の健康食品から、ニアウォーター、アイスクリームまで多様化、百貨店や通販などで販売されている。さらに最近では、カイコ(幼 虫)やサナギそのものを加工した健康食品まで登場し話題を集めている。

肝機能改善、アトピー改善などヒト試験で実証

昭 和63年、東京農工大の平林教授により「次のバイオ素材は絹だ」と題する発表が行われ、食品としてのシルクが初めて紹介された。当時は、各新聞社に取り上 げられ大きな反響を呼んだという。平成2年には、国内有数の絹織物の産地である京都丹後地方の加悦町が設立した第3セクター、加悦総合振興(有)と平林教 授との共同研究により、シルクパウダーの商品化に成功し、従来繊維素材だったシルクの食品化事業が促進された。
シルクにはグリシン、アラニン、 セリン、チロシンなど18種類のアミノ酸が含まれており、グリシンとセリンは血中コレステロール濃度を低下させ、アラニンは肝機能を強化、チロシンは痴呆 症を予防する効果があるとされている。シルクの機能性については、これまで動物実験で肝機能改善、インシュリンの分泌促進などの生理活性が確認されてい る。さらに、昨年8月に開催された「第15回和漢医薬学会大会」では、シルクタンパク酵素分解物の肝機能改善効果がヒト試験で確認され、またアトピー症状 改善効果も認められている(29面参照)。
こうした学術報告は、健康雑誌や新聞などでも取り上げられ、機能性食品素材としてのシルクの認知拡大に貢献している。これを受けて、新しい企画の原料や新製品を市場投入する企業も多い。
シ ルクパウダーは、絹糸を分解して作られる(簡略図参照)。製品に使用される原料は、絹糸を微粉砕した粉末、酸加水分解もしくは酵素処理によって低分子化し た粉末があり、原料各社は飲料、乾燥物(タブレット等)など用途に応じて供給している。また、加工しやすいように吸湿性を低く抑えた原料などもある。
現 在、販売されているシルク健康食品のほとんどは、消化吸収性に優れている低分子化した原料を使用。各社の製品は、タブレットまたは顆顆タイプのものが多 く、一般食品形態のものでは、ニアウォーターやアイスクリーム、ヨーグルトのほか、うどんやそばなど幅広い。各製品の訴求点は、糖尿病や高血圧などの生活 習慣病予防、二日酔い防止のほか、化粧品素材としても知名度が高いため美容効果を訴求する製品もある。

桑の葉成分含むカイコ粉末が登場

一 方、最近ではカイコ(幼虫)そのものを加工した健康食品も登場している。原料となるカイコ粉末は、韓国政府が製法特許を所有しており、各社は韓国からこの 粉末を輸入、国内で加工し製品化している。カイコ粉末は、桑の葉に含まれるDNJ(デオキシノジリマイシン)などの有効成分を含有しており、抗糖尿病素材 として使用されるケースが多い。参入企業はまだ少ないものの、新聞、雑誌などに取り上げられ注目されている。また今年刊行された食用カイコ粉末に関する書 籍『さらば糖尿病』も数万部のセールスで、取り扱い書店も増加しているという。
シルクは「食べる絹」として紹介されてから、すでに10年以上を経ているが、各メディアの報道や学術報告などにより、再び市場が動き始めている。こうした動きは、「食べるカイコ」というユニークな素材が登場したことで相乗効果をもたらし、さらに加速していくとみられる。

製造方法簡略図

タブレットからニアウォーターまで用途開拓進む

製品市況

シ ルクを使用した製品は現在、タブレットや顆粒タイプの健康食品のはか、ニアウォーター、アイスクリームなどもある。各社販路は百貨店や通信販売、スーパー やコンビニなど。従来からシルク製品を扱う企業はリピーターに支えられ、安定的な売上げを確保。また今年に入り新製品投入も相次いでいる。

需要急増で、前年比20%増の伸長率

市場で流通する健康食品は、そのほとんどが酸加水分解もしくは酵素処理を施したシルクパウダーを使用。価格帯は、3.000円台から1万円を越えるものもある。従来からシルク製品を扱う企業では、「昨年から問い合わせが増えはじめた」としている。
約 7年前からシルク製品を販売する、全国養蚕農業協同組合連合会・絹事業部(東京都千代田区)では、食用シルクの販売事業が前年比120%と伸長している。 桑の葉、西洋人参を配合した健康食品『スーパーシルク』(350粒・3.800円)やシルク配合のアメ、うどんなどを農協、生協、デパートなどで展開、ま た食品用途で酸加水分解処理を施した原料の供給も行っている。シルクパウダーの年間消費量も約4.5トン(自社製品含む)に達しており、同社では今後も需 要が拡大するとみている。また同社ではアガリクス・ブラゼイとシルクをブレンドした健康食品を年内をめどに発売する。同時期に販売を開始している、シルク 化粧品の専門メーカー、㈱ナチュラル・アーバン(東京都品川区)では、タブレットタイプの『絹命100』(250mg×300粒・6.800円)を直販 ルート、代理店ルートで展開。同品に使用される原料は酸加水分解処理を施している。美容効果を訴求してあり、「ここ1~2年、動きが活発化している」とす る。

天然亜鉛とシルクをブレンド

昨年から今年夏ごろにかけて、各社から新製品が相次ぎ発売されたシルク市場。単味製品のほかに、混合品で相乗効果を提案するものもある。
金 亀糸業㈱(東京都中央区)は昨年11月から、顆顆タイプの『シルクロマン』(2g×60袋・1万5.000円)を自社通販で展開。酵素分解処理を施したシ ルクパウダーを使用した製品で、今年に入り販売数量が伸びている。今後、新規販路の開拓に注力する。今年7月に顆粒タイプの『バイオシルク』 (2.5g×30ステイック・6.800円)を発売した、㈱ケニー(愛知県名古屋市)は、通販および薬系ルートで展開している。同品は酸加水分解処理を施 したシルクパウダーを使用。同社では、二日酔いや肥満、美容に対応する商材として提案、「関連団体や各企業の取り組み次第では予想を上回る反響が出てくる のでは」と期待を寄せる。同じく今年参入組の㈱ベンファクト・コーポレーション(東京都港区)は、今年中旬に北欧ヒバマタとシルクを混合したタブレット 『絹亜鉛』(300mg×100粒・5.800円)を発売し、デパートを中心に展開。同品は亜鉛が豊富に含まれるヒバマタを配合することで相乗効果を狙っ ている。生活習慣病予防、美容促進を訴求し、初年度の販売目標は1万5.000箱を目指す。
一方、ペットボトル飲料を提案する企業もある。盛田 ㈱(愛知県名古屋市)は今年3月の『シルクウォーター』(500ml・140円)を発売、全国のスーパー、コンビニなどで展開している。天然水を使用し、 シルクのほかにビタミンCやコラーゲンを配合。同社では、OLや学生など若年層をターゲットに美容効果を訴求、テレビなど販促活動にも積極的だ。

桑の葉成分が凝縮する「食べるカイコ」

カイコ粉末

ここ最近、ユニークな新素材「食べるカイコ(幼虫)」が静かなブームを呼んでいる。これまではカイコが吐き出す絹糸に注目が集まっていたが、カイコそのものを加工した健康食品を糖尿病対応商材として提案する企業が出始めた。

カ イコは、桑の葉だけを食べる昆虫で、絹糸を吐き出す前の幼虫には、桑に葉の有効成分が凝縮されている。糖の分解酵素の働きを阻害するDNJ(デオキシノジ リマイシン)は桑の葉の有効成分のひとつだが、カイコにもこの成分が含まれている。このため、各社は抗糖尿病健康食品として販売している。使用される原料 は、絹糸を吐き出す直前のカイコを窒素ガスで酸化防止処理し、冷凍乾燥させて粉末化したもの。韓国政府がこの製造方法と工程の特許を所有するため、各社は 粉末を輸入し国内で製品化する。また同国政府では動物実験やヒト試験などで、同素材の血糖降下作用を確認している。
昨年7月に『ボスリン』 (290mg×270粒・1万2.000円)を発売したボンビックス薬品㈱(大阪市中央区)は、デパートや薬局・薬店、鍼灸整骨院などで展開している。現 在、韓国政府と提携し、幅広い臨床データを得るための臨床試験を準備中。また糖尿病や健康全般に関する無料相談など、啓蒙普及活動を通して販売促進につな げている。今後の市場について、「生活習慣病の改善に役立つことから、利用分野と利用者の幅はもっと広がる」と予測している。
㈱オノジュウ(東 京都新宿区)は今年2月、カイコそのものを加工したタブレット『シルクパワー』(300mg×270粒・1万2.000円)を発売、薬局・薬店などで販売 している。同社では、発売後の反響が大きいことから健康食品店などへも販路を拡大し、OEM供給にも対応していく方針だ。また同社では糖尿病研究会(同社 主催)で、韓国から講師を招きカイコに関する勉強会なども行っている。
一方、他素材との混合品で差別化を図る、プラセンタエキスの専門メー カー、スノーデン㈱(東京都千代田区)は今月15日、『グルコバランス』(300mg×270粒・1万5.000円)を発売した。タブレットタイプで、カ イコ粉末をベースに、プラセンタエキスや桑の葉、ニガウリエキス、ギムネマエキスを配合、こられ糖尿病対応素材をブレンドすることで相乗効果を狙ってい る。OEMにも対応していく方針。同社では医療関係者に対しても同品の情報提供を行っており、「反響が大きい」としている。
原料では、㈱日鉱がカイコ粉末を扱っており、また国内では珍しいカイコのサナギ抽出物を濃度別にラインアップしている。

大手メーカーも機能研究進める

原料事情

シ ルク食品に主として使用される原料は、酵素分解または酸加水分解処理されたものがある。どちらも消化吸収性に優れており、要望に応じて、一般食品、健康食 品メーカーなどに供給している。ここ最近各社は、「問い合わせが増えている」としており、展示会への出展などで、自社原料を積極的にアピール、販売強化を 図る企業もある。また今年に入り、吸湿性を低く抑えるなどの改良を施した新規格原料も上市されている。

韓国でも需要が増加

シ ルクパウダーは、食品用途では10社近くの企業が供給しているとみられ、キリンビール㈱などの大手メーカーも参入している。またシルクパウダーの原料は、 国産もしくは中国産のものが多く、絹衣料にならない、くず繭やくず絹などが使用される。昨年から今年にかけ、原料の動きは活発化しており、各社の販売強化 へ向けた取り組みも目立つ。
コスモ食品㈱(東京都中央区)では用途に応じて2種類のシルクパウダーを供給している。原料はすべて国産のシルクを 使用、水溶性を高めている。『M-500』シリーズは酵素処理を施し、吸湿性を改良したことで、タブレットや顆粒など乾燥物製剤に適している。 『M-300』シリーズは酸加水分解したもので、乳飲料、飲料や海鮮珍味などへの添加に適している。同社では、昨年からシルク原料が動き始め、原料販売も 前年比10%以上の伸びを示すなど好調だ。原料調達から粉末化まですべての加工精製工程を自社生産ラインで管理している。また、同社の原料は、キリンビー ル㈱(東京都中央区)も取り扱っており、シルクの機能研究を進めている。㈱日鉱(愛知県丹羽郡)でも、加水分解および酵素分解法を用いたシルクパウダー2 種類を供給している。このほかにも、微粉砕した粉末やカイコ粉末、サナギ抽出物を扱っている。シルクパウダーは中国産原料を国内で精製したもので、加工法 による特性別に『アミノ酸タイプ』『オリゴペプチドタイプ』『プロテインタイプ』と分け、要望に応じて供給。国内では、『アミノ酸タイプ』の動きが活発 化、韓国向けでは『オリゴペプチドタイプ』が健食用途で需要が高いという。また末端製品『シルクパウダー100%』(200g・1万8.000円)も販売 している。

従来原料の難点を改良

一 方、平林教授とともにシルクの食品化を促進した立役者ともいえる、加悦総合振興㈲(京都府与謝郡)では、加水分解処理を施したシルクパウダーやペースト状 の原料を供給している。絹織物の産地として有名な京都丹後地方の加悦町が1989年に設立した第3セクターで、同社の原料を採用している企業は数多い。同 社ではシルク市場について、「急速な伸びは期待できない」としながらも、「ゆっくりと伸長していく素材」と期待を寄せている。現在、多様化する消費者ニー ズに対応した、新しい商品の開発を進めている。また、㈱プロザテック(千葉県千葉市)では、従来の加水分解シルクパウダーの難点である吸湿性を改良した新 規格原料を開発、今月から『RP-3000』の供給を開始した。同原料は乳化性や起泡性などの物性にも優れていることから、食品加工の物性改良にも使用で きる。同社では飲食しやすい食材として提案していく。
その他、紡績中堅のダイワボウの100%子会社、ダイワボウポリテック㈱(兵庫県加古郡)でも食品用途のシルクパウダーを扱っている。食品から化粧品、工業資材用途のシルクパウダーを供給。市場の様子をみて本格供給を開始する方針。

学術情報

昨年8月開催の「第15回和漢医薬学会大会」において、大阪外大保健管理センターの梶本修身医学博士ら5名による症例報告で、シルクパウダーの生理活性がヒト試験で確認された。ここでは、同臨床報告を要約して紹介する。

絹タンパク酵素分解物における肝機能障害およびアトピー性皮膚炎に対する効果

[対象]
内 科外来通院中の肝機能障害患者20名(平均年齢58.2歳)および皮膚科外来通院中の成人型アトピー性皮膚炎患者12名(平均年齢22.9歳)。全症例に おいて医薬品投与経験があったが、同試験品投与開始時に症状あるいは血液データ異常が残存している患者のみを対象とし、試験中の医薬品の変更は行わなかっ た。

[試験および評価方法]
絹タンパク酵素分解物(商品名・金亀糸業「シルクロ マン」)を1日1回、1回2gを8週間投与、評価は、肝機能障害では、12項目の自覚症状と、GOT、GPTなど血液上の肝機能マーカー5種類を測定し た。アトピー性皮膚炎に対しては、8項目の皮膚科的症状評価を実施。診察は専門医師計5名によって行われたが、医師間の評価に差が出ないよう、評価基準を 統一し、同一患者においては投与前後の評価を同一医師により実施した。

[結果]
(1) GOT、GPT、γ-GTP、トリグリセリドにおいて統計的に有意な肝機能改善効果が認められた。
(2) 全身倦怠感他自覚症状の改善が顕著に認められ、医師による有用度最終判定で全患者の85%に有用との結果が得られた。
(3) アトピー性皮膚炎の主症状である掻痒、乾燥などにおいて、重症度の軽減がみられ、医師による最終有用度判定でも75%に有用との結果が得られた。
以上により、肝機能障害およびアトピー性皮膚炎に対し、同酵素分解物の有用性が示された。また本食品の特性として、糖尿病や高血圧症など生活習慣病予防にも有用である可能性が示唆された。
全患者の肝機能マーカー平均値

全患者の肝機能マーカー平均値
投与前
投与後
GOT
78.6
50.2
GPT
77.2
49.5
ALP
221
208
γ-GTP
73.2
57.1
コレステロール
216
211
トリグリセリド
147
128
肝障害患者自覚症状改善
改善
不変
悪化
全身倦怠感
75%
25%
0%
腹部膨満感
70%
30%
0%
二日酔い
78%
22%
0%
浮腫・むくみ
90%
10%
0%
便 秘
90%
10%
0%
全般症状
80%
20%
0%
アトピー性皮膚炎重症度推移
投与前
投与後
掻 痒
1.67
1.33
乾 燥
1.50
1.08
落 屑
1.08
0.83
丘 疹
0.83
0.75
水 泡
0.41
0.33
全 般
1.50
1.00