泡盛(「健康」07年3月)
糖尿病の人がお酒を飲むのなら、ほかのお酒にくらべてカロリーが低く、血栓を溶かす泡盛がおすすめ
倉敷芸術科学大学教授・医学博士 須見洋行先生
須見先生のPROFILE
山梨大学工学部発酵生産学科を卒業。徳島大学医学部大学院修了。シカゴマイケルリース研究所、宮崎医科大学助教授などをへて現職。納豆をはじめとする発酵食品にくわしいことで有名
適量を飲むのなら、酒は「百薬の長」となる
糖尿病というと、真っ先に禁止されるというイメージのあるお酒。もちろん、糖尿病の人が大量のお酒を飲めば、種類を問わず、カロリーのとりすぎになるのでいけません。
しかし、じつは適量であれば、お酒は糖尿病に悪いどころか、よい影響があると考えられるのです。ここに興味深いデータがあります。
15年ほど前、フィンランドのフォルサンダー博士によって行われた研究です。同じ食事をしてビールやワインなどのお酒を飲み、その後、血糖値がどのように推移するかを調べたのです。
お酒を飲んだ30分後に血糖値は上がり、4~5時間後に下がります。
3時間後以降に15㎎/㎗くらい下がります。
普通の人だとものをとって30分後くらいの血糖値は100㎎/㎗です。
この血糖値の下がり方が、まったく飲まない人より、アルコールを飲んだ人のほうがよく下がることがわかったのです。なぜ、飲酒で血糖値が下がるのか、その理由やメカニズムは残念ながらわかりませんでした。
この研究は、アルコールと健康のかかわりについて調べた走りというべきもの。その後、アルコールの健康効果が注目され、多くの研究が行われるようになりました。
その後、週に2~3回程度飲酒をする人と、宗教上の理由などでまったく飲酒をしない人をくらべた調査があります。その結果、まったく飲まない人より、多少飲む人のほうが心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患の発症率が低いことがわかったのです。
理由はわかりませんでしたが、アルコールに健康に役立つ成分があるのか、飲みたい人にとっては禁酒がストレスとなり、健康に悪影響を及ぼすのかもしれません。
血糖値をゆるやかに上げ、低カロリーな泡盛
それ以降、善玉コレステロールをふやすなど、アルコールの健康効果が次々と発表されました。「アルコールは適量であれば体にいい」という認識が広がり、国 際的に「適量」の基準が決められました。アルコールにして1日30ml、ビールならば大瓶1本、日本酒ならば1合、というものです。
糖尿病でも飲みたい人は無理に禁酒をしてストレスをためるより、適量のお酒を上手に飲むほうがよいと思われます。糖尿病の人が飲むのであれば、ほかのお酒より泡盛がおすすめです。
泡盛は焼酎乙類の仲間のお酒で、乙類と甲類の2種類があります。乙類と甲類の違いは簡単にいえば、蒸留法の違いにあります。くわしい説明は避けますが、焼 酎乙類はアルコール分45度以下のもの。麦・米・芋などを原料とし、蒸留を1回のみしている原料の風味あふれるお酒です。
泡盛は蒸留酒のため、醸造酒(日本酒やワインなど)と違い、糖分やアミノ酸を含んでいません。血糖値の上昇がゆるやかなため、高血糖の人にも安心です。
同じアルコール度数のお酒と比べると、低カロリーなのも魅力。ビール中ジョッキが1杯で約203キロカロリーあるのに対し、泡盛(35度のもの)100mlは、約69キロカロリーなのです。
また、泡盛を含む焼酎乙類は血栓溶解酵素の働きを高める効果があります。血栓(血のかたまり)があれば、心筋梗塞や脳梗塞などの発作につながりかねません。その血栓を溶かすよう働きかけてくれるというわけです。
1日に飲む量ですが、アルコールの度数が40度のものなら60 ml程度を目安にしましょう。