シルクとカイコの特集
(健康産業新聞・2005年1月19日号から抜粋)
市場規模20億円、用途拡大進む
抗糖尿、肝機能改善、ダイエット、抗アレルギー素材として、さ まざまな角度から機能性研究が進められてきたシルクとカイコ。食べるシルクが食品素材として流通し始めたのは15年前で、7年前に登場したカイコ健食を含 めた市場規模は20億円前後に成長。商品アイテムは健康食品をはじめ、製麺、豆腐、菓子、調味料、ドリンクなどと多様化している。さらに、化粧品や医療分 野への進出も図られており、機能性成分を有効活用した用途拡大が進んでいる。一方、民間企業の調査によると、消費者の「食べるシルク」の認知度は14%に すぎず、主要各社は抗糖尿素材としての認知向上に向けた普及啓発と、消費者や業界関係者への効率的なPRを模索している。「食べるシルクとカイコ」をレ ポートする。
養 蚕の本家・中国では、古来よりカイコの繭を煎じた漢方処方があり、伝承的にシルクが糖尿病に効くことが知られていた。日本ではシルクの食品用途への道を開 いたのは、東京農工大学教授の故・平林潔氏だ。同氏は、昭和63年に開かれた日本学術会議蚕糸学研究連絡セミナーで、「次のバイオ素材は絹だ」と題して発 表。シルクの栄養学的な価値に加え、人工皮膚や人工血管など医療分野への応用についても言及し、注目を集めた。食品用途での事業化に初めて着手したのは、 京都の加悦町で、平成2年に第三セクター・加悦総合振興㈱を設立。シルクパウダーの原料供給を開始した。
シルク原料の絹糸を吐き出すカイコ(幼 虫)は、抗糖尿の代表素材である桑の葉を餌にしており、糖の分解酵素の働きを阻害する有効成分としてDNJ(デオキシノジリマイシン)を含む。ボンビック スや薬品㈱は1998年、カイコを窒素ガスで酸加防止処理し、凍結乾燥させて粉末化した商品を他社に先駆けて発売した。原料となるカイコ粉末は韓国政府が 特許を所有しており、国内で製品化したもの。
1998年以降、“食べるシルクとカイコ”は、テレビや雑誌などでたびたび取り上げられる素材とな り、03年9月にはテレビ番組『スパスパ人間学』でシルクパウダーが紹介され、健康食品の需要が急増。現在、食品用途では、健康食品を中心に乳酸菌飲料、 麺類、パン、豆乳、アイスクリーム、菓子、漬物などにシルクが利用されている。健康食品はカプセル、錠剤、顆粒、パウダーなどの形態で流通されており、単 味製品が多い。複合品としては、黒酢、コラーゲン、シジミ、亜鉛、桑の葉など肝機能改善、美肌、ダイエット、性機能向上、抗糖尿素材との組み合わせが目立 つ。使用する原料は絹糸を微粉砕したものや、加水分解もしくは酵素処理を施したものが主流。価格帯は2.000円台から1万円台までと幅広く、9割近くが 無店舗販売ルートで流通している。
一方で、食品以外での商品開発も進み、化粧品、入浴剤、石鹸、人工皮膚、動物用飼料、農作物の肥培管理用肥料など用途は多岐にわたっている。
で は、、「食べるシルク」は消費者にどれだけ浸透しているのだろうか。絹糸から溶け出していたセリシンを抽出・精製する技術を持つセーレン㈱は、昨年3月に 「シルクとセリシンの認知」に関するインターネット調査結果を発表した。調査結果によると、食品の認知度は14%にすぎず、化粧品・シャンプーの27%を 13ポイントも下回っている。シルクの食品への道が開かれてから17年経った今でも、「食べるシルク」が十分認知されているとはいえず、各社は効率的な PRを模索している。
シルクはフィブロン(絹繊維)とセリシンという2種類のタンパク質で構成される。18種類のアミノ酸を含み、必須アミノ酸をすべて含有しているのが特徴 だ。組成別ではグリシン、アラニン、セリン、チロシンの割合が高い。機能面では、血中コレステロール低下、インスリン作用、抗アレルギー作用、肝機能改 善、血圧低下作用などが動物実験や臨床試験で確認されている。またセリシンは、保湿効果や紫外線を遮断する機能を有しており、化粧品やアパレル関連などで の利用が進んでいる。
表1 シルクパウダーの国内需給動向(kg)
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2002年
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2003年
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セリシン
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2,232
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1,992
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フィブロイン
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69,068
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68,350
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計
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71,300
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70,272
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表2 フィブロインパウダーの分野・用途別の2003年国内販売状況
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食 品
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数量(kg)
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構成比(%)
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化粧品(整髪量含む)
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数量(kg)
|
構成比(%)
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経口剤
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12,529
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71.3
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パウダー
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8,400
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27.1
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製麺
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2,015
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11.5
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ファンデーション
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18,000
|
58.1
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豆腐
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1,200
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6.8
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口紅
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2,250
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7.3
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菓子
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857
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4.9
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石鹸
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493
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1.6
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調味料
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240
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1.4
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ローション
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939
|
3
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ドリンク剤
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214
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1.2
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その他
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912
|
2.9
|
その他
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515
|
2.9
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計
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30,994
|
100
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計
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17,570
|
100
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整髪料
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5,404
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ー
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シルクペプチド、セリシンやフィブロインなどのシルクパウダーとカイコ 粉末を供給する原料サプライヤーは20社前後とみられる。(独)農畜産業振興機構によると、シルクパウダーの2003年国内販売量は前年比1.4%減の7 万272㎏となった(表1)。ファブロインパウダーのシェアが98%と圧倒しており、原料全体では国産物が87%を占める。用途別では、食品用が前年比 8.7%増の1万7.570㎏と順調に推移。化粧品用は同2.8%減の3万994㎏となった。食品の用途別構成比は健康食品が71.3%と最も高い。化粧 品ではファンデーションとパウダーの上位2品目で8割強のシェアを確保している(表2)。
シルクとカイコの健食の市場規模は、各社の聞き取り調 査などから推計すると、20億円前後とみられる。原料価格は、国産セリシンパウダーがキロ3~6万円、輸入物7.000~1万5.000円、国産フィブロ インパウダーがキロ9.000~1万1.000円、輸入物7.000~8.000円。また、カイコ粉末はキロ1万~1万2.000円で取引されている。
シ ルクとカイコは、長い低迷にあえぐ養蚕業の育成・振興を目的に、農水省、民間企業、大学・研究機関など産官学共同によるプロジェクトが各地で進行してい る。ロード21㈱では信州大学繊維学部教授の近藤慶之氏らと共同でシルクアミノ酸に関する機能性研究を進めるほか、宮城県丸森町が進める「丸森発シルク ロード計画」にも参画。シルクの高付加価値商品の開発支援を行っている。
2001年には産官学の情報交流を行う第三者機関「絹・蚕・桑多目的利用協議会(KSS協議会)」が発足。現在28会員で組織され、講演会の開催や会報紙の発行など積極的な活動を展開している。
シルクパウダーは、製織工程で出るくず絹を副産物として使用するなど、環境にやさしいリサイクル資源としての利用価値に加え、地域の養蚕業の活性化など社会的意義も大きく、今後、産学共同研究の進展と用途拡大が期待されている。
企業動向
シルクとカイコの原料サプライヤーは約20社。原料は加水分解もしくは酵素処理したものが主流だ。末端製品の約9割は、通販や訪販など無店舗販売ルートで 流通される。健康食品は各社とも安定的な売り上げを確保。両素材とも抗糖尿対応として提案する企業が多い。シルクは化粧品や動物用飼料、医療品など用途開 拓が進んでいる。
「ロード21」
ロー ド21㈱(東京都立川市)は、国産シルクアミノ酸を原料に用いて、健康食品をはじめ一般食品、化粧品、動物用飼料、植物用肥料など幅広い用途で展開してい る。今年度は前年比3倍増の売り上げを見込む。売上高の約50%を占める健康食品は、単味成分での商品展開が中心だが、シジミ、玄米黒酢などと組み合わせ た複合品も販売しており、通販ルートで好調な売り上げを見せている。一般食品では漬物、乳酸菌飲料、ヨーグルト、ラーメン、パン、豆乳、アイスクリームな どを健康に訴求する食品として展開している。3月には自社ブランドの植物用飼料を上市する。
同社は、信州大学繊維学部教授の近藤慶之氏とシルク アミノ酸の生理活性などに関する共同研究を進めている。産学共同研究でも人工皮膚を開発し、医療分野への進出も果たした。さらに同社は、宮城県丸森町が養 蚕素材の機能性に着目した新たな分野の商品開発、土壌改良、桑の葉や実などの食品への利用と商品開発のための支援活動を行っている。
「ボンビックス薬品」
ボ ンビックス薬品㈱(大阪市中央区)は、韓国政府が所有する蚕粉末の特許に基づいて抽出した蚕粉末を使用した錠剤タイプの『ボスリン』を他社に先駆けて 1998年に発売。さらに2003年には、カイコ粉末をエキス化し、6種類の食物エキスを配合したソフトカプセルタイプの『ボスリンゴールド』を発売。両 品とも通販と薬系ルートで展開し、前年比60%増と急伸している。また同社ではカイコ粉末を抗糖尿、ダイエット、性機能向上素材として原料供給しており、 前年比50%増で推移している。カイコは天然飼料を用いて飼育し、安心・安全な原料供給に努めている。
「キッスビー健全食」
キッ スビー健全食㈱(東京都三鷹市)は、国産繭の絹のエキスのみを使用した基礎化粧品「絹夢物語」シリーズの販売に注力している。同品は、天然桑で育てた蚕か ら生産された繭の真綿だけを原料に使用。養蚕には人工飼料を使用していないため、セリシンなど有効成分を豊富に含むことが特徴だ。また昨年は、顆粒タイプ 『ピュアシルク』を発売。開発に数年間を費やした自信作として提案する。
「リバソン」
リ バソン㈱(大阪市中央区)は、水溶性で純度45%の国産シルクパウダーを原料供給している。錠剤、顆粒、カプセルなど健康食品用途を中心に、飲料、化粧品 用途での提案も進めている。価格はキロ6.000~8.000円。原料供給は輸出が9割強を占めるが、今後は国内販売を強化する。同社では、年内をめどに 純度90~100%のシルクパウダーの供給を開始する。
「一丸ファルコス」
一 丸ファルコス㈱(岐阜県本巣市)では、免疫賦活、抗酸化、抗がんプロモーション作用など、独自の研究データを蓄積、酵素分解シルクペプチド『エディブルシ ルク』を美容・健康食品素材として提案する。同素材は、特許製法によりシルクプロテインを酵素分解したもの。平均分子量を約1.000マイクロペプチドで 製品化。水溶性のため、サプリメントからドリンク、一般食品まで、高い汎用性を有する点が特徴だ。シルク由来の化粧品原料のパイオニアである同社では、金 沢大学との共同研究により、新たに抗肥満、血糖値降下作用を見出したほか、現在、骨粗しょう症に対する研究を実施、食品用途での研究データの蓄積に注力し ている。
「オノジュウ」
㈱オノジュウ(東京都大田区)は、カイコ粉末健食『シルクパウダー』を全国1.800店の薬局・薬店で展開、前年比20%増と好調だ。今年度は同10~15%増の売り上げを見込む。1999年に発売以来、着実に顧客を増やし、リピート率も高いという。
「プロザテック」
(有)プロザテック(千葉市若葉区)は、シルクを酵素分解した『シルクペプチドM-500』と『シルクペプチドM-3000』、3μm以下の超微粉末原料『シルクパウダー(COSI)』を健康食品、ドリンク、化粧品用途などで展開している。
「サイオーシルクサイエンス」
サイオーシルクサイエンス㈱(東京都港区)は、2年後をめどに野蚕の製品開発や原料供給の新規事業に乗り出す。シルクプロテインに桑の葉などを配合した『元気くん』の原料も「野蚕」に変更する。