(健康産業流通新聞・1999年11月11日号から抜粋)
今 春、桑葉の機能性がテレビで紹介されたとこを発端に桑葉商品の売上げが伸びている。桑葉のみに含まれるDNJ(1.-デオキシノジリマイシン)の糖吸収抑 制の機能性が脚光を浴びたからだ。その桑葉を唯一の食品源とする蚕(カイコ)にもDNJが豊富に含まれていることから商品開発が活発化、さらには廃棄され ていた絹を加工したシルクペピチドも健食に利用されており、三つの素材が相乗的に市場を形成するようになっている。そのなかでも5年程前に健食素材として 登場したシルクペプチドは、イメージの良さと目新しさから現在では主原料及びサブ原料として用いられるケースが多く、実績ある素材として定着しつつある。 また韓国からの輸入に頼っていた蚕(カイコ)粉末も、国内産の原料が流通しはじめ、桑葉もエキス原料を揃えるなど、商品化が進む環境は整えられている。こ の十、十一月だけでも、シルクペプチド、桑葉及びエキスを添加した商品が大手メーカー数社から上市され、市場の拡大基調がみられている。桑葉、蚕(カイ コ)、シルクにスポットをあててみた。
(中略)
生活習慣病対応で進む商品化
「蚕(カイコ)」
㈱ オノジュウ(東京都新宿区)は「シルクパワー」(300㍉㌘×270錠・1万2000円)を今年二月に発売。全国3000件のオノジュウチェーンの薬局・ 薬店の他、健食ルートなどが主な販路。蚕(カイコ)粉末99%を使い、アラビアガムで錠剤化している。桑葉成分が含有される他、必須アミノ酸を含む18種 類のアミノ酸、カリウム、カルシウム、鉄、亜鉛などのミネラル、食物繊維などが豊富なのが特徴。医療機関のデータでは血糖値が200以上あった人が3ヶ 月~半年で正常値に近づくことが判明。チラシやPOPを配布し、研究会を開催するなどで啓発活動を展開。初年度2億円の売上げを見込む。
スノー デン㈱(東京都千代田区)は「グルコバランス」(300㍉㌘×270粒・1万5000円)を今年九月に発売。蚕(カイコ)粉末を主原料に、桑葉エキス、ニ ガウリエキス、ギムネマシルベスタエキス、プラセンタエキスなどを配合した。蚕(カイコ)粉末、桑葉エキスの機能に加え、ニガウリエキスには動脈硬化予 防・改善作用、ギムネマには糖吸収抑制作用、プラセンタには保湿・新陳代謝促進作用などがあることがわかっている。通販を主体に、OEM供給も行ってい く。
ボンビックス薬品㈱(大阪市中央区)は「ボスリン」(270錠・1万2000円)を昨年七月より自社通販、一部の薬局・薬店から販売。蚕 (カイコ)粉末を主原料に錠剤化した。売上げは、今年に入って、蚕(カイコ)粉末の有用性を説いた「さらば糖尿病」が上梓されたこともあって伸長、月間 2000本前後を販売している。顧客のフォローとして薬系ルートに三人のカウンセラーを置き、健康相談に応じている。今後、薬局・薬店の他、通販ルートな どの販路も拡大する意向。
一般食品・飲料へ利用拡大
「シルク」
全 国養蚕農業協同組合連合会・絹事業部(東京都千代田区)は全国農協組織、生協、デパート、JALなどが販路。シルクプロテインをベースに桑の葉、西洋人参 粉などを加えた「スーパーシルク」(250㍉㌘×350粒・3800円)や「シルクパウダー」(250㌘・3500円)があり、パウダーは月間200㌔㌘ を販売。食品用途で原料供給も行い、酸加水分解シルクを年間7㌧消費。
㈱日鉱(愛知県丹羽郡)は今春“食べるシルク”3タイプを発売。アミノ酸 タイプは乳製品、無糖甘味料などが用途。オリゴペプチドタイプは栄養ドリンク、健食、化粧品向け。プロテインタイプは健食、化粧品向け。自社商品「食べる シルク」(150㌘・1万2000円)は直販主体に販売。PB商品の開発にも応じ、蚕(カイコ)原料も用意。
(有)プロザテック(千葉県千葉市)は酵素分解した「M-500」、加水分解した「M-300」、500をさらに改良した「M-3000」の3タイプを用意。健食の他、清涼飲料水、菓子などにも採用されており、企画開発も行う。
金 亀糸業㈱(東京都中央区)は昨年十一月「シルクロマン」(2㌘×30袋・7500円)を発売。国産繭を酵素分解したシルクパウダーに発酵乳酸カルシウム、 ショ糖エステルを配合、アミノ酸単体よりも腸管での吸収がいい。昨年八月の「第15回和漢医薬学会大会」では、国立大阪外大保健管理センター・梶本修身医 師らが、肝機能障害およびアトピー性皮膚炎に対する効果の臨床研究を発表。自社通販、薬局、健食ショップで販売。
㈱ケニー(名古屋市港区)は今 年七月「ケニーのバイオシルク」(2.5㌘×30スティック・6800円)を発売。シルクパウダー、粉末発酵乳、オリゴ糖、有胞子性乳酸菌、ムコ多糖タン パク複合体、ビタミンCなどを配合。絹タンパクを加水分解しており様々な分子量のアミノ酸、ペプチド、プロテインを含有。高分子のシルクパウダーは消化吸 収されず糖や脂質と結合、発酵乳・有胞子性乳酸菌・オリゴ糖とともに整腸作用を発揮。分子量が200~300のものは約90%が吸収される。通販主体に販 売、七~十月の売上は約300万円。
㈱島路(広島県福山市)は8年前に“絹の風シリーズ”として「シルクパウダー」(20㌘・2000円)を発売。食べる他、ファンデーションなどに加えて利用でき、健食ショップ、通販、生協などが販路。
盛 田㈱(名古屋市中区)は今年三月「シルク・ウォーター」(500㍉㍑・140円)を発売、東京農工大。名誉教授の平林潔氏、(社)日本絹業協会・ジャパン シルクセンターの協力で開発。天然水をベースに酵素分解したシルクペプチド、ビタミンC、コラーゲンを配合。ライチの後味と100㍉㍑16㌔㌍が売りで、 10代後半~25歳の女性がターゲット。
桑葉・DNJが糖吸収を抑制
桑葉は、カルシウム、カリウム、マグネシウム、鉄、亜鉛などの必須微量ミネラルや食物繊維、フラボノイドを豊富に含み、桑葉のみに含まれる1-デオキシノジリマイシン(DNJ)などとの相乗効果で様々な機能性を発揮する。
桑葉についての研究は神奈川県の研究機関が活発に行っている。神奈川県科学技術政策推進委員会・機能性食品共同研究プロジェクトチームは、桑葉の脂質低下、肥満抑制、発ガン抑制効果などを報告した。
同県衛生研究所は、糖分解酵素・α-グルコシダーゼを阻害することで、小腸からの糖吸収を強力に抑制する作用のあることや、コレステロール・中性脂肪の抑制作用、血糖値および血圧の正常化作用、インスリン分泌改善作用、肝機能改善作用などのあることを解明した。
また、同県がんセンターは、肝臓がんの抑制作用を確認、群馬県立医療短期大の下村教授らも桑葉による体重抑制作用を確認した。
韓国では血糖降下剤の蚕(カイコ)粉末
蚕(カイコ)は桑葉成分を体内に蓄積し、液状シルクを造成、必須アミノ酸を含む18種類のアミノ酸、カリウム、亜鉛、体内でビタミンAに転化されるカロチン、ビタミンE、カルシウム、鉄、食物繊維などを含んでいる。
こ の蚕(カイコ)については、韓国政府の農業振興庁研究所とキョンフィ大学が共同研究を行った。四~五齢のさなぎになる直前の段階まで成長した蚕(カイコ) を酸加防止処理した後、冷凍乾燥した粉末を使い、成分分析、有効成分の検索、基礎実験、臨床試験を実施。蚕(カイコ)粉末には血糖降下作用があり、そのメ カニズムは、蚕(カイコ)の食料である桑葉に糖の吸収を抑制し、血糖値を下げる成分が含まれており、蚕(カイコ)にはこの成分が効率よく生体に濃縮されて いることが判明した。
これらもデータによって、韓国内ではもちろん、日本においても昨年三月に「蚕(カイコ)粉末を有効成分として含む血糖降下剤及びその製造方法」の発明名称で正式に特許登録された。
新陳代謝を促進、シルクペプチド
食 べるシルクとして科学的研究に取り組んだのは、東京農工大・名誉教授の平林潔氏で、フィブロインというタンパク質でできたシルクのアミノ酸の機能性に着目 し、これを分解した水溶性シルクによるラットの実験で様々な機能性を証明した。フィブロインには18種類のアミノ酸が含まれ、グリシン、セリン、アラニ ン、チロシンで全体の86.7%を占め、他にロイシン、トリプトファンなど8種類の必須アミノ酸を含んでいる。最も多いグリシンは、体内に入った有害物質 を肝臓の中で排泄されやすい形に変える解毒作用があり、コレステロール低下作用、高血圧・動脈硬化の予防・改善作用、新陳代謝促進作用などがある。このグ リシンと相互変換するセリンによって、血中インスリン濃度が増加することも確認されている。
また、アラニンは、アルコールの代謝を促進し、悪酔いや二日酔いを予防、肝臓の負担を軽減する。さらに脳の神経伝達物質・ドーパミンの材料となるチロシンは、痴呆や神経障害の予防・回復に役立つ。
シ ルクの分子量は高分子で、そのままでは体内に吸収されないが、加水分解するとアミノ酸やオリゴペプチドの状態になり、腸壁からの吸収率は90~95%とな る。この加水分解したシルクを冷凍乾燥するとアミノ酸が約60%、オリゴペプチドが約40%というシルクパウダーが得られる。