糖尿病の患者さんの数が増えています。国際糖尿病連合の調査では2003年には世界で糖尿病患者さんの数は1億9000万人でしたが、昨年には4億1500万人と倍増しました。このままのペースで増え続けると、2040 年にはなんと6億人を超えるのではないかと予想されています。日本においても、糖尿病の患者さんは720万人にのぼると言われていて、今後も増えていくことが心配されています。

そんな糖尿病ってどんな病気でしょう?

糖尿病とは文字通り、糖(ブドウ糖)が尿(おしっこ)に出る病気です。健常な状態ではそうはならないのですが、血液中の糖が多くなると、お風呂のバスタブから水がこぼれ落ちるように、糖が尿へと出て来てしまいます。

糖が尿に出ること自体は、あまり問題はありません。むしろ、血液の中の糖の値が高くなることに問題があります。

まずは、正常な血糖の変動はどうなっているのか、見ていきましょう。我々が食事をすると血液中の糖の値が上昇し始めます。血糖値は食後30分から1時間でピークに達し、通常は2時間後にはもとのレベルに近くなります。

なぜ一旦、上昇した血糖値がもとのレベルまで低下するのでしょうか? それは「インスリン」というホルモンがあるからです。

食事をすると、それに反応してインスリンが膵臓から分泌されます。このインスリンが血液の流れにのって筋肉など全身の細胞に届き、その作用で細胞がブドウ糖を取り込むため、血液中の糖はもとのレベルまで下がります。

しかし、糖尿病ではインスリンが少ない、あるいはインスリンの効きが悪いために全身の細胞において糖を取り込むことが不十分になり、その結果、血液中に糖が残って高血糖の状態になります。

●インスリンがうまく働かず

ここでいう「インスリンが少ない」状態は、インスリンを作る膵(すい)臓という臓器の働きが悪くなるため起こります。

また、「インスリンの効きが悪い状態」とは、インスリンが作用する筋肉の側の問題によりインスリンがあってもその信号が細胞に伝わりにくくなっていて、結果的にブドウ糖をうまく取り込めない状態です。

実は、この血糖の高い状態が、認知機能に問題を引き起こします。特に注意力や遂行能力(段取りよく物事を進める能力)が損なわれます[1]。

また、薬などを使って血糖値を下げる糖尿病の治療をしている患者さんの中に、血糖値が低くなりすぎることで認知機能に問題が起こることがあります。糖尿病の患者さんで、意味の通らない、わけのわからないことをおっしゃっているときはこの症状を起こしている可能性があります。すぐに血糖値を測り、低血糖であれば糖を補充する必要があります。

低血糖でおこる一時的な認知機能の低下は、血糖値を上げることによって治ります。ただ、低血糖が続くと脳がダメージを受けます。高齢の糖尿病患者では、こうした低血糖の症状を起こす回数が多いほど、認知症の発症のリスクが高くなることが報告されています[2]。

つまり、血糖値は認知機能の面からも「高くてもいけない、低くてもいけない」ということになります。

●1400万人が高リスク

血糖値が高いと、ほかにも大きな問題が起きます。血管が障害を受けてもろくなってしまうのです。例えば、心臓に栄養を届けている冠動脈が動脈硬化を起こし、狭心症や心筋梗塞になりやすくなります。目の網膜の動脈ももろくなり、傷ついた血管が何らかのきっかけで破れ(眼底出血)、最悪の場合は失明につながります。さらに腎臓の血管もやられてしまい、進行すると人工透析をしないといけなくなります。

脳の血管ももちろん例外ではなく、糖尿病性の動脈硬化が起こります。これによって血の流れが悪くなり、脳の機能が障害を受けます。また脳梗塞のリスクともなります。

冒頭、日本人の糖尿病患者さんは720万人と述べましたが、その前段階である「インスリン抵抗性」の方々を含めると、その数はほぼ倍(約1400万人)となります。これは、日本の人口のなんと10分の1以上にもあたります。そして、これだけたくさんの人たちが、認知症になる高いリスクを背負っているのです。

糖尿病を予防したり、きちんと治療して進行を抑えたりすることは、まさしくこの連載のタイトルの通り、認知症の予防にもつながるのです。具体的にはやはり、食物繊維や魚などを含むバランスの良い食事を適量摂取し、肥満にならないようにすること、また歩行やレジスタンス(抵抗)運動など適度な運動を習慣にして続けることです。また糖尿病の患者さんは、血糖値を下げる薬を使う際に薬が効きすぎて低血糖を起こしてしまう場合もありますので、こうしたことが起きないよう、かかりつけの医師らとよくコミュニケーションを取りながら治療を続けてほしいと思います。

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(文献)

1.Sato, N. and R. Morishita, Brain alterations and clinical symptoms of dementia in diabetes: abeta/tau-dependent and independent mechanisms. Front Endocrinol (Lausanne), 2014. 5: p. 143.

2.Whitmer, R.A., et al., Hypoglycemic episodes and risk of dementia in older patients with type 2 diabetes mellitus. Jama, 2009. 301(15): p. 1565-72.

3.「糖尿病アトラス 第7版 2015」(Diabetes Atlas 2015) 国際糖尿病連合

4.北野邦孝著 神経内科の外来診療(医師と患者のクロストーク 第2版)

<アピタル:糖尿病予防は認知症予防・糖尿病はどんな病気か>