糖尿病の歴史

 

糖尿病はいつ頃から存在していたのでしょうか。

今から三五〇〇年以上も前に記されたエジプトの書物には、糖尿病に関する幼稚な記述がみられることから、それ以前に存在していたという事がわかります。

今から一七〇〇年も前に、トルコのカッパドキアに住んでいた医者アレテウスが糖尿病について詳しく記しています。

インドや中国では二〇〇〇年前にはすでに糖尿病について記されています。

古代インドでは「口渇、頻尿、衰弱を伴う多尿症の尿は蜜のように甘く、アリが群がる」と記されており、中国でも「多尿症(消渇症)(しょうかち)の尿は甘く、犬がなめる」と記されています。

しかし消渇は腎臓や尿路の病気と考えられていました。

ヨーロッパで糖尿病患者の尿が甘いことに気づいたのはそれよりずっと後のことです。

一九二一年にインスリンが発見されるまで、糖尿病は三五〇〇年もの間「死の病」として世界中で恐れられていたのです。

十九世紀に入るとヨーロッパでは、糖尿病患者の膵臓(すいぞう)に異常があることに気づきはじめました。一八六九年にランゲルハンスは、膵臓には消化酵素をつくっている細胞とは別の特別な細胞が、まるで島のように点在していることを発見しました。

この部位は現在「ランゲルハンス島」、あるいは「膵島」と呼ばれています。

一八八九年にはメーリングとミンコフスキーによって、膵臓がなくなると糖尿病が起きるということが発見されました。

これを機に研究者たちは一斉に膵臓に注目しはじめました。

そして遂に一九二一年、カナダのバンティングとベストによって、糖尿病を抑える働きを持つホルモンが膵臓から抽出されました。

インスリンと名付けられたこのホルモンは翌年から糖尿病治療に活用されて、目覚しい効果を上げました。

これによって、「糖尿病による死」は「糖尿病と共に生きる」ということに進化しました。