2015.8.29 朝日新聞

糖質の吸収をゆっくり「スローカロリー」

「スローカロリー」という言葉を最近、見聞きします。糖質の吸収をゆっくりにすることで健康を目指す取り組みです。

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ごはんや麺、砂糖などの糖類を口にすると、消化されてできたブドウ糖が血液に取り込まれ、血糖値が急速に上がる。

ヨーロッパの計約2万人が対象の研究では、この食後血糖値が通常の人より高い人は、空腹時高血糖の人や通常の人より心血管病や脳卒中などで死亡するリスクが2~3割高かった。

慶応大の勝川史憲教授(スポーツ医学)はこの研究などから、「血糖上昇を抑制する食事で心臓病などのリスクを低下できる可能性があります」と話す。勝川教授ら研究者や企業が参加し今年2月、糖質の吸収の速度と肥満や糖尿病の予防効果などを研究していく「スローカロリー研究会」ができた。

ふだんの食事でも、糖質が多い主食より先に食物繊維の多い野菜料理を食べると、糖質の吸収を穏やかにする効果が期待できる。研究会ではさらに、糖質の種類によって体内での吸収速度に差があることを利用する取り組みも進める。

例えば、メンバーの三井製糖(東京都)が約30年前から製造している糖「パラチノース」。分解後の成分やカロリーは砂糖と同じだが、腸内での分解に時間がかかるため、血糖上昇が穏やかな特徴がある。この性質が再評価され、2011年から「スローカロリーシュガー」として販売が始まった。

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一方、パラチノースなどの一部の糖では、上昇した血糖値が、砂糖と比べて緩やかに下降することが分かっている。この特性を長時間の運動に利用する取り組みも始まっている。

神奈川県立保健福祉大の鈴木志保子教授(スポーツ栄養学)はこれまで、繊維が多く血糖値上昇が長続きする玄米おにぎりなどを選手に食べさせ、血中のブドウ糖を長時間確保するよう工夫してきた。しかし、下痢しやすいなどのデメリットもあり、昨年から、プロサッカー選手らの栄養サポートにパラチノースを使っている。選手からは「ガス欠にならない」との声があがっているという。

市販品でも、ランナーや自転車選手などの持久競技向けに、パラチノース入りの「スポーツようかんプラス」(井村屋)も、昨年発売された。

関西大の弘原海剛(わだづみつよし)教授(スポーツ科学)は、消化吸収がおだやかで緩やかな血糖値上昇が続く「トレハロース」を持久競技に活用できないか調べている。30~35キロを走ったような体の状態でトレハロースをとる実験では、水やブドウ糖を補給するより運動能力が保たれたという。

ただ、運動後のエネルギー回復には速やかに血糖値が上がったほうがいいともされ、勝川教授は「スローカロリーのスポーツへの応用には研究や科学的根拠がまだまだ必要」と話す。(竹野内崇宏)

■インフォメーション

スローカロリー研究会のサイト(http://slowcalorie.jp)では「食物繊維の多い食事にする」など実践方法を紹介。糖尿病、メタボなどとの関連も研究し、成果を発表していくという。

トレハロースを製造販売する林原(岡山県)のサイト(http://treha.jp)では血糖変化の穏やかさなどの特徴が図つきで分かる。