インスリンを直接体内に補給する「インスリン療法」

糖尿病患者インスリン注射
糖尿病患者インスリン注射

膵臓からインスリンが殆ど分泌されない患者、即ち「1型糖尿病」患者にはインスリンを直接補給する必要があります。

これを「インスリン療法」と言います。

また、通常はインスリン療法を行っていない人でも、感染症にかかった時や大けがをした時、手術が必要な時、ステロイド剤を使う時、妊娠中の女性、経口血糖降下剤が効かなくなった時などにはインスリン療法を施す場合があります。

 

インスリンとは

インスリンとは膵臓のランゲルハンス島のB細胞でつくられるポリプチドホルモンです。

ポリプチドから分離されたインスリンは血液の中に分泌されて、ほかの栄養物質と共に肝臓に流れ込み、大部分は肝臓で使われます。

残ったインスリンは心臓を経て全身にまわっていきます。

血糖値が低くなると、肝臓に貯められていたグリコーゲンがブドウ糖になり、血液内に入ります。

空腹時の血中インスリン正常値は九~一五μμ/mlです。

インスリンはブドウ糖などの栄養物質を細胞が取り組むのを助けます。

脳細胞や赤血球はインスリンの助けをあまり必要としませんが、筋肉や脂肪、肝臓の細胞はインスリンの助けが必要です。

血液中のブドウ糖濃度が上がると、分泌されるインスリンの量が増え、血液内のブドウ糖が脂肪や筋肉に取り込まれるのを促進します。

またインスリンは、肝臓でブドウ糖がつくられないようにする役割もこなします。インスリンは細胞が血糖を取り込むための手助けをしますが、そのためには相手側の細胞(標的細胞)の持っている「インスリン受容体」という受け皿と結合する必要があります。

いくらインスリンが正常に分泌されても、相手側のインスリン受容体に異常があれば、インスリン本来の機能を発揮できずエネルギー代謝に異常が生じます。

 

インスリン療法

インスリン補給は現在注射で行っています。

注射は患者自身が自分で打ちます。注射器は改良が進み、現在はコンパクトで簡単なペン型注射器が主に使われています。

インスリン注射は毎日することなので、いつも同じ場所にすると皮膚が固くなるなどのトラブルが起きるので、注射部位は毎回変えなければなりません。注射は腕、太股、腹部にします。

インスリン注射は一日二、三回(毎食前)時間を決めて打ちます。ですから毎日の食事時間もきちんと決めておくのが大事です。

インスリン注射の効果は絶大です。

一九二一年までは、糖尿病性昏睡や重い合併症で死ぬしかなかった重症の糖尿病患者をインスリンは見事に救い、素晴らしい効果を発揮しました。

また、「2型糖尿病」患者の中にはインスリン療法がきっかけになって、膵臓が刺激され再びインスリンが分泌できるようになった人もいます。

しかしインスリンにも欠点はあります。

毎日毎日、一年三六五日、一日数回注射をするなんて大変なことです。(注射針が時々大変痛いツボにあたる場合もあります)

また、低血糖性昏睡も心配です。インスリンの量を間違えたり、食事を抜いたり、注射の間隔が長すぎたり、激しい運動をしたときなどには要注意です。

そのほか、同じ場所に繰り返し注射をしていると、その部位の皮下脂肪がなくなり、くぼんでしまうことがあります。これをインスリン・リポアトロフィーと呼んでいます。