治療の基本は食事・運動

過食・運動不足、肥満などの糖尿病の原因をそのままにして薬だけで治療するのは不可能です。

糖尿病治療では患者ができるだけ「普通の生活」を送れるように、生活習慣を改善することから始まります。重い症状が出ないように血糖値をコントロールするのです。

軽い糖尿病なら軽いコントロールでOKですが、重い糖尿病になると厳しい規制をされる上に薬も服用しなければなりません。

生活を規制されるといっても法律によって定められているわけではないので、「患者自身が自分の生活を管理する」ことが治療のスタートであり、生涯にわたって肝に銘じなければならないことです。

 

患者自身の心構えが肝心

糖尿病は治療できないと聞けば、患者は暗い気持ちになってしまいますね。

しかし生活習慣の乱れが原因になっている患者は医者の指示に従って、体をいたわるような生活さえすれば「健常者」でいられるのです。

糖尿病をきっかけにバランスのとれた食事、規則正しい生活と運動習慣が守られ、「健常者」以上に健康になった人もいるのです。

ちょっとしたきっかけで生活のリズムが狂う場合もありますが、そこで挫折せず、同じ病気で悩む人たちとのコミュニケーションなどを積極的に行って「自己管理」を続けて欲しいものです。

まずは本人が「必ず治す!」という強い意志を持たなければなりません。

しかし「よし、やるぞ!」と意気込んでみても、何をどうしたらいいのかわからなければ実行のしようがありません。

信頼できる医師のもとで自分に最も適した療法で治療したとき、血糖値コントロールもスムーズにいきます。

間違った自己流の治療法は糖尿病を悪化させる要因になりかねません。

糖尿病の治療には大きく分けて三つの方法があります。

食事療法・運動療法・薬物療法です。

軽い糖尿病なら食事と運動療法で血糖値をコントロールできます。

食事・運動療法をきちんとしてもだめな場合には薬を使います。

「インスリン依存型」患者の場合は最初からインスリン注射をする必要があります。

 

食事療法

糖尿病治療の基本は食事療法です。

食事療法をきちんとこなし体重を減らしただけで、患者の五〇%は健康状態を取り戻せるのです。

食事療法は毎日のことであり、食事を常に自分や家族の者がつくるとは限りません。

旅先や、外出先、会社など外食をする機会もあるはずです。

最初のうちはきちんと守っていても後々めんどうになって放り出してしまう場合がよくあります。

普段から主治医に相談したり、糖尿病教室などに通っているとそういう挫折が少ないようです。

人によって体格や、仕事での消費エネルギー量が異なるので、個人個人にあった必要エネルギー量を計算して食事の内容と量を決めなければなりません。

自分の適性エネルギー量を知るために、まず標準体重を計算します。

標準体重を求める方法はいくつかありますが、下に二つの計算方法を記しておきます。

自分の標準体重がわかったら、今度は自分の一日の必要エネルギーを割り出します。必要エネルギー量は職業や年齢によって違ってきますが、下の表を参考に計算します。

例えば、身長一七五センチの印刷業の方なら、標準体重が<一・七五×一・七五×二二=六七・三キログラム>で、一日の必要エネルギーは<三五キロカロリー×六七・三=二、三五六キロカロリー>となります。

必要カロリーはあなたの現在の体重をもとに計算するのではなく、あくまでも標準体重を基準にして計算しますので、肥満気味の方から見れば非常に厳しい食事制限になるかも知れません。

自分の必要カロリーに応じて一日の食事内容と量を決めます。

必要カロリーに応じた食事と言われても、普通の人はご飯一杯が何カロリーかなんて知らないでしょうし、また関心もなかったことでしょう。

しかし糖尿病患者はこれから生涯にわたって自分の食生活をコントロールしていく必要があるので、料理を目で見ておよそ何カロリーかを推定できるようにしなければなりません。

そのため日本糖尿病協会では「糖尿病治療のための食品交換表」というものをつくりました。

この表を利用して自分に合ったカロリーの範囲内で材料を選び、調理すればいいのです。

最近では糖尿病治療のための献立やメニュー、調理法などを詳しく記した本がたくさん出版されているので、それらを参考にするのがよいでしょう。

食事療法はカロリーをおさえるだけでなく、必要な栄養素をバランスよく摂ることがポイントになります。

糖質、タンパク質、脂質の三大栄養素とビタミン・ミネラルをバランスよく摂るということは、それぞれ同じ量だけ摂るということではありません。栄養素の配分としては糖質六〇%、タンパク質二〇~三〇%、脂質一〇%強というのが理想的です。

肥満気味の糖尿病患者は体重を減らすのがまず必要ですが、絶食に近い無理なダイエットはとても危険です。特に薬物治療中の患者が絶食などしたら、低血糖性昏睡を起こして命取りになりかねません。

食事療法の基本は「バランスのとれた食物を適量食べること」です。

 

標準体重の計算方法1.身長(m)×身長(m)×22=標準体重2.{身長(cm)-100}×0.9=標準体重

 

体重1kgあたりの必要エネルギー
事務員、主婦、入院患者 25~30kcal
運転、機械操作、サービス 30~35kcal
農業、漁業 35~40kcal
運送、土木、スポーツ選手 40kcal以上

 

運動療法

非依存型の糖尿病患者の多くは食べ過ぎと運動不足が原因となっているのです。

運動をすれば体重を落とせるし、食事療法の効果もアップします。また全身の血流が良くなり、血中ブドウ糖が筋肉により多く取り込まれます。

そのほか動脈硬化の予防、心肺機能の強化、体力アップ、ストレス解消など様々な効果があります。

いいことずくめの運動療法ですが、糖尿病は症状が多彩ですから、病気の状態によっては運動制限をされたり、ストップさせられます。

運動療法は趣味やストレス発散だけのためでなく、あくまで病気の治療なんだということを肝に銘じて、必ず医者の指導を受けるようにしましょう。

医者と相談して自分の運動量を処方してもらったら、それを毎日続けることが大切です。

食事療法もそうですが、運動療法も生涯にわたって付き合っていかねばならないので、特殊な器具を使ったり、複数の人が必要だったり、お金のかかるものは邪道です。激し過ぎず、毎日できて長く続けられる運動がいいでしょう。

これらの条件を満たすピッタリのスポーツは何でしょうか?

それはウォーキング、すなわち「歩くこと」です。それも食後に行うのが最も効果的です。

目標は一日一万歩、距離にして約五キロメートルです。

朝に三十分、夕に三十分という風に一日二回ほどに分けて歩くと良いでしょう。薬物療法を行っている人は運動による低血糖を起こさないよう気をつけなければなりません。したがって空腹時には運動をしてはいけません。