糖尿病治療の目的は血糖コントロール

糖尿病治療(食事、運動、薬物療法)は、経験されている方ならご存じの通り、たやすいことではなく、人によっては面倒なことでもあり、また辛いものでもあります。しかし、このような治療も目的あってのもの。血糖値を正常値に近づけるために頑張っている方は、これ以上糖尿病を悪化させないため、また、合併症を招かないためにもこの機会にもう一度糖尿病治療の目的について考え直してみましょう。

血糖値を適切にコントロールするにあたって、誤解しやすい点やわかりにくい点について解説します。

 

★HbA1c数値が正常でも油断は禁物

 

食前も食後もよく血糖コントロールできている「Aさん」と、食前は血糖値がかなり低く食後には高血糖になっている「Bさん」を比較した場合、血糖値の平均値であるHbA1cには、差が現れません。

ではこのケース、HbA1cが同じだからといって特に問題はないのでしょうか?いいえ、実はここに大きな落とし穴があるのです。それはHbA1cが同じような数値であっても合併症の起こる確率が異なるということです。血糖値がある程度以上に高くなっている時間帯には、血液が固まりやすくなる、タンパク質が糖化される、酸化ストレスが強まる、遊離脂肪酸が放出される、など、体によくない現象が起こり、それが合併症を引き起こす原因となります。さらに、それら血糖値が高い時間帯に起きる現象の一部は、血糖値が正常域に低下したあとも、引き続き悪影響を及ぼすようです。

したがって、空腹時と食後の血糖値に大きな差がある「Bさん」の方が、合併症の出る可能性が高くなるのです。

最近重要視されているHbA1cは1~2ヶ月前の血糖値の平均をあらわしますが、実際血糖値がどのように変動しているかはわからないので、比較的に理想的な数値であっても合併症については安心できないわけです。

 

★理想的な血糖コントロールとは?

 

理想的な血糖コントロールは、一日の血糖値変動をできるだけゆるやかに、また食後の高血糖を抑え高血糖状態の時間をできるだけ短くすることです。血糖値の上下動“振幅”を少なくすること、つまり、より健康な人の血糖変動に近づけるということです。

糖尿病で通院していると、食前(空腹時)の血糖値検査は定期的におこないますが、食後の高血糖時の検査をする機会はなかなかありません。

糖尿病の専門医らは最近、空腹時血糖値と食後血糖値の両方を検査して比較するケースが増えてきました。

自身も糖尿病で、糖尿病専門医である江部康二医師は、「食後の血糖値を急激に上昇させないためには、炭水化物を排除した食事メニューが有効」と話し、ご自身も実践して成果を上げています。

要するに、ご飯や麺類、パン、芋類などを極力減らせば、肉類などは普通に食べても食後血糖値が上昇しにくいということです。これを「糖質制限食療法」と呼んでいます。

 

 

★血糖コントロールを良好に保つためには?

 

  • 簡易自己血糖測定器などを利用して1日の血糖変動をチェックしてみましょう。
  • 食事療法など行ってもどうしても高血糖になる方は、糖質(お米や麺類など)を排除して、食後の急激な高血糖を抑える工夫をしましょう。
  • 時間が許す限り食後運動を心がけましょう。

 

◎合併症は血糖変動の振幅に大きく関わっています。HbA1c数値が良好なのに合併症が出てきているという方は、今一度ご自身の血糖変動について見直してみることも必要かも知れません。これがうまくいけば糖尿病だといっても健康な人と変わりません。どうぞ、糖尿病治療が実を結べるように励んでください。