糖分の吸収を抑える「血糖値の改善確認」
(2000年8月12日毎日新聞記事)
桑 の葉といえば、カイコのえさだが、人間の糖尿病の予防にも効果があることが、最近の研究で分かってきた。腸内で糖分の吸収を抑えるという。この桑の威力に 着目し、桑の葉のお茶や桑の葉の入ったパンなどを作って売る町おこし運動が登場。医療機関でも糖尿病予防に用いるところが出てきた。【小島-正美】
桑の根、葉は昔から利尿、せき止めなどの漢方薬として用いられ、.養蚕地帯では桑の葉をせんじて飲む習慣があったというが、詳しい薬理効果が分かってきたのは最近のことだ。
◆ラットで実験
神 奈川県衛生研究所・食品薬品部長の佐藤修二さんや専門研究員の宮原智江子さんは、遺伝的に糖尿病が発症するラットを使って桑の効果を調べた。えさに桑の粉 末を加えないラットは予想通り、空腹時の血糖値が1デシリットル当たり400ミリグラムになるなど糖尿病にかかった。これに対し、えさにそれぞれ2・5 %と5%の桑の葉の粉末を混ぜた2グループの血糖値はあまり上がらず、同200ミリグラムぐらいを保った。また、桑の葉を食べないラットは、血糖値を下げ るインスリンの分泌が悪かったのに対し、桑の葉を食べたラットではインスリンの分泌が良かった。、さらに、桑の葉エキスを与えたラットは、過剰な砂糖を与 えたにもかかわらず、肝臓への中性脂肪の蓄積が抑えられ、脂肪肝を予防する効果が見られた。砂糖やでんぷんは腸内で、α(アルファ)-グルコシダーゼとい う酵素によって単糖類に分解され吸収される。桑の葉に含まれる成分(1ーデオキシノジリマイシン)は、.この酵素の一働きを邪魔して、糖の吸収を抑えると いわれている。
◆各種ハーブと比較
国 内の糖尿病患者は現在約700万人。病状が進んで失明する人が年間約3000人もいる。玉川大学農学部講師の八並一寿さんは、糖尿病を減らすために.「桑 の葉をもっと活用すべきだ」と力説する。、八並さんが、桑の葉茶とほかの各種ハープとで、糖の吸収抑制につながる「酵素(αーグルコシターゼ)の阻害活 性」を比べたところ、桑の葉茶が際立って高かった。αーグルコシターゼの働きを邪魔する市販薬、も売られているが、桑の葉茶にも同様の効果があるわけだ。 八並さんは「糖尿病の人でも、食事前や食事中に桑の葉茶を飲めば、糖分の吸収を抑えることができる」と話す。いちいち桑の葉茶をせんじて飲まなくてもよい ように八並さんは桑の葉のエキスとプロポリス(蜂の巣から抽出した健康食品)を混ぜた「クワポリス」.を開発。これを東京都渋谷区の渋谷三丁目クリニック (豊嶋穆院長)で糖尿病の患者十数人に飲んでもらっているが、2ヵ月闇続けて飲んだ68歳の女性のケースでは、空腹時の血糖値が400から150~160 に下がるなど著しい効果が見られたという。
◆”桑茶〃やパンで町おこし
う どん、ビールにもこうした〃実績”を踏まえ、桑の生産者が比較的残っている神奈川県相模原市では今年5月、14農家や企業家が参加して「さがみ桑茶連絡協 議会」(事務局は相模原産業振興財団=-TEL042・768・266O)を結成。桑の葉だけのお茶を「さがみの桑茶」(値段は180グラム袋で20OO 円など)の名で売り出した。桑の葉の粉末を詰めたカプセルも販売している。また相模原市内では、桑茶以外にも、桑の葉の粉末を混ぜたパンやうどん、桑の葉 抽出エキスを加えたビ-ルが試作されている。いわば「桑による町おこし運動」で、他県の桑の産地にも波及しそうだ。